大切な人との時間

3ヶ月ぶりの面会
母は、こんなに綺麗な黄昏時の景色を見ることができないって。
髪が真っ白になっていた母は、私の顔を見てもキョトンとした表情だった。
知らない人を見る目
この頃の母は、もういない。

2年前の今頃は、ひ孫のお食い初めを喜んでいた母。
入院して1年2ヶ月
「誰も知っている友達がいない。」
「早くここから出して。」
目を開けることができず、うつむいたまま涙を流している。
「もっと近くに来て・・・」
母が発した言葉・・・
私の胸は、ナイフで刺されたような痛みだった。
「ごめんね。」しか言えなかった。
特別養護老人ホームへの入所の手続きを進めていると妹から聞いている。
1年2ヶ月前に特別養護老人ホームへの入所の選択肢もあったが、私は強く推すことができなかった。
精神的時負担
経済的理由
悔しい
15分きっかりに、面会時間終了のアラームが鳴る。
振り向いて、別れを惜しむ時間もなく、母の車椅子は移動させられた。
寂しい
悲しい
母がこうなる運命を設定して、この世に生まれてきたとしても。
いつものスピリチュアルな思考では割り切れない。
親孝行できなかったことが悔やまれる。
高校生の頃、バイト終わり電車の時刻を公衆電話から伝えた。
母は、いつも夜道の暗い道を迎えに来てくれていた。
ありがとうお母さん
心配かけたくないとの思いから、私たちの夫婦関係が破綻していることは一切言わなかった。
父の事故と同時に、私の離婚を話された母。
ごめんねお母さん
父要介護4
母要介護1(認知症)
父への憎しみと、怒りと、悲しみの感情で溢れ返っていた母の感情を知ることはもう出来ない。
母の自己肯定感の低さと、孤独感は、計り知れないものだったと思う。
母との、さよならのない別れが近づいている。
母は、もう、顔を上げて、前を見る気力がない。
私は、母の方を両手で押さえ、
「目を開けて、私の顔を見て。」
「目が開かない」
「しっかり。」
うっすらと、力のない目で私を見つめてくれた。
もう少しだけ待ってね。
お母さん
ごめんね
お母さん
ありがとう
もっと、もっと、そばに、
この今の気持ちをしっかりと書き記しておこうと。
さよならのない別れ。
妹への感謝も近いうちに
しっかりと伝えようと思う。
今夜は、この悲しみを味わい尽くして。明日は、しっかりと前を向いて生きよう。
母の分も。
ありがとう。